「介護サービスの囲い込み」問題の本質とは? 質の高いサービスが“悪”と見なされる矛盾

住宅型有料老人ホームなどにおける、いわゆる「囲い込み」問題。

国の検討会がその対策案を示すなど、再び業界の大きな関心事となっています。

 

悪意をもって利用者の選択の自由を奪い、不適切なサービスを提供する事業者は、論を俟たず市場から排除されるべきです。

しかし、現在の「囲い込み」を巡る議論は、果たして本質を捉えているのでしょうか。ともすれば、質の高いサービスを提供している事業者までもが、“悪”のレッテルを貼られかねないという、危険な側面をはらんでいるように思えてなりません。

 

本コラムでは、この問題の根深い矛盾点に切り込み、これからの介護経営とケアマネジメントに求められる本当の姿を考えていきます。

 

実効性に乏しい国の対策案

まず、国が示している対策の素案を見てみましょう。

その柱は、契約プロセスのガイドライン整備や、ホームと介護サービス事業者の提携状況を行政へ報告・公表させることで、運営の透明性を高めるというものです。

 

聞こえは良いですが、これで本当に悪質な「囲い込み」がなくなるでしょうか。

残念ながら、その効果は限定的と言わざるを得ません。

 

ガイドラインに罰則はなく、遵守するかは事業者の道義的責任に委ねられます。

そもそも住宅型有料老人ホームは介護保険の運営指導の対象外であり、人員不足に悩む自治体が、新たな指導にどこまで時間を割けるのかも甚だ疑問です。

 

巧妙な事業者は、「国の指導でこうなっていますが、あなたのためを思うと…」といった言葉で、いくらでも利用者を誘導できてしまうでしょう。

つまり、ルールを厳しくしたところで、悪意のある事業者を完全に締め出すことは極めて難しいのです。

 

「サービスの集中」は、すべてが悪なのか?

ここで、私たちは最も重要な論点に立ち返る必要があります。

それは、「特定の事業者にサービスが集中すること=悪」という単純な二元論で、この問題を片付けて良いのか、という問いです。

 

考えてみてください。

ある有料老人ホームが、理念ある運営方針のもと、質の高い訪問介護事業所と居宅介護支援事業所を併設しているとします。

職員の研修に力を入れ、多職種連携も円滑で、結果として利用者からの満足度も極めて高い。

このような事業所であれば、入居者が「ここのケアマネジャーにお願いしたい」「ここのヘルパーさんに来てほしい」と希望するのは、ごく自然な流れではないでしょうか。

 

利用者の自由な選択の結果として、自社グループのサービスに利用が集中したとしても、それは「囲い込み」ではなく「支持の集中」です。

これを画一的なルールで「不適切」と断じてしまえば、質の高いサービスを提供しようと努力している事業者の意欲を削ぎ、結果としてサービスの質そのものを揺るがしかねません。

 

ケアマネジャーに求められる「矜持」と「説明能力」

この矛盾を乗り越える鍵は、ルールによる縛りではなく、現場のケアマネジャーの専門性と矜持(きょうじ)にあると、私は考えます。

 

併設の居宅介護支援事業所に所属するケアマネジャーは、事業者本位ではなく、利用者本位のケアプランを作成することを、何よりも優先しなければなりません。

その上で、もし自社グループのサービスが利用者にとって最適であると判断したのであれば、なぜそのサービスを選んだのかを、論理的かつ具体的に、誰にでも説明できるだけの知識と度量を持つべきです。

 

「うちのサービスは質が高いから」という曖昧な理由ではありません。

「この方のこの状態には、24時間連携が取れるうちの訪問介護が最も迅速に対応できる」「この方の社会参加の意欲を支えるには、うちのデイのこのプログラムが最適だ」と、専門家として胸を張って主張できるケアマネジメント。

それこそが、悪質な囲い込みと、質の高いサービス提供とを明確に分ける試金石となるのです。