「臨時改定」では救えない―― 訪問介護の未来を支える“基本報酬”の再設計を

2026年 6月に予定されている“介護報酬の臨時改定”では、介護職員の処遇改善加算が拡充され、幅広い介護従事者への恒久的な賃上げが図られることになりました。

 

一見、前向きな支援策に見えるこの改定ですが、現場からは「これだけでは足りない」「本質的な課題が置き去りにされている」といった声が相次いでいます。

特に、訪問介護をはじめとする小規模事業者の経営危機は深刻であり、“つなぎの支援”ではなく、持続可能な制度設計が求められているのです。

 

本稿では、今回の臨時改定の概要と現場の反応を整理しながら、2027年度の定期改定に向けて必要な視点を考えてみたいと思います。

■ 処遇改善だけでは救えない現場の現実

今回の臨時改定の柱は、処遇改善加算の拡充です。

介護職員の賃上げは喫緊の課題であり、現場のモチベーション維持や人材確保の観点からも重要な一歩です。

 

しかし、現場からはこんな声が聞こえてきます。

 

・「加算を取るための要件が複雑で、事務負担が大きい」

・「加算で一時的に賃金が上がっても、基本報酬が下がれば意味がない」

・「小規模事業所では加算の取得すら難しい」

 

つまり、処遇改善だけでは、経営の根幹を支えるには不十分であり、特に訪問介護のような“薄利多忙”のサービスでは、加算頼みの制度設計に限界があるのです。

■ 小規模事業者の“静かな危機”

今回の審議会では、全国市長会の長内市長が、訪問介護事業者の倒産件数が過去最多となった実態に言及しました。

その多くが小規模事業者であり、基本報酬の減額が経営を直撃していると指摘しています。

 

訪問介護は、地域の高齢者が住み慣れた自宅で暮らし続けるために不可欠なサービスです。 しかし、以下のような構造的課題を抱えています。

 

・利用者1人あたりの単価が低く、移動時間の負担が大きい

・サービス提供時間が短く、効率的な運営が難しい

・職員の確保・育成が困難で、属人化しやすい

・加算取得のハードルが高く、経営努力が報われにくい

 

こうした中で、基本報酬の減額は“最後の砦”を削る行為とも言え、地域のサービス基盤そのものが揺らいでいるのです。

■ 利用者・家族からの切実な声

審議会では、利用者の立場を代表する委員からも、訪問介護の重要性と危機感が強く訴えられました。

 

認知症の人と家族の会・志田副代表理事は、 「認知症の本人や家族にとって訪問介護は必要不可欠」と述べ、 「何としても本気になって解決していただきたい」と強く要望しました。

 

また、高齢社会をよくする女性の会・石田副理事長は、 「加算、加算ではなく、基本報酬が上がらなければ課題は解決しない」と指摘。

日本介護福祉士会・及川会長も、訪問介護の多様な実態を丁寧に把握・分析する必要性を訴えました。

 

これらの声は、現場の切実な実感と、制度設計との乖離を浮き彫りにしています。

■ 2027年度改定に向けた“本質的な議論”を

今回の臨時改定は、あくまで“つなぎ”の支援策です。

本質的な制度設計の見直しは、2027年度の定期改定に委ねられることになります。

その議論に向けて、今から取り組むべき視点は以下の通りです。

 

🔹 基本報酬の再設計

・訪問介護の特性(移動・短時間・個別性)を踏まえた報酬体系

・小規模事業者でも持続可能な水準の設定

・加算頼みではなく、ベースとなる報酬の底上げ

 

🔹 実態に即したデータ収集と分析

・集合住宅併設型と単独型の訪問介護の違い

・地域差・事業規模・サービス提供体制の多様性を反映

・経営実態調査の頻度と質の向上

 

🔹 地域支援の視点を取り入れる

・地域包括ケアの中での訪問介護の役割を再評価

・自治体との連携による地域密着型支援の強化

・小規模事業者への支援策(補助・連携・人材確保)

■ まとめ:「声を届ける」ことが制度を動かす

介護報酬の議論は、制度や数字の話に見えがちですが、 その根底には、現場で働く人の声、そして利用者・家族の暮らしがあります。

 

「人が辞めない職場をつくるには?」 「地域のサービスをどう守るか?」 「本当に必要な支援とは何か?」

 

こうした問いに向き合いながら、現場の声を制度に届ける努力を続けることが、未来の介護をつくる第一歩です。

 

2027年度の定期改定に向けて、今こそ“本質的な議論”を始めるときです。