主任介護支援専門員研修は、地域包括ケアシステムの中核を担う人材の育成を目的とし、全国で実施されています。
一方で、居宅介護支援事業所の「管理者要件」として主任介護支援専門員であることが求められる中、実際の事業所運営に必要な“経営実務”との間にギャップを感じる声も少なくありません。
本コラムでは、主任介護支援専門員研修の構造と目的を整理しつつ、現場の実務との乖離、そして今後の制度見直しの方向性について考察します。
1. 研修の目的と構造:専門職能の強化に特化
主任介護支援専門員研修は、地域包括ケアシステムの構築と、質の高いケアマネジメントの実践を担う人材の育成を目的としています。
カリキュラムは9つの科目で構成され、スーパービジョン、リスクマネジメント、地域援助技術、多職種連携、終末期ケア、業務管理など、専門職としての知識と技術の修得に重点が置かれています。
特に「人材育成及び業務管理」や「対人援助者監督指導(スーパービジョン)」といった科目では、主任介護支援専門員が他のケアマネジャーを指導・支援する立場として必要な視点やスキルを学びます。
また、組織統治(ガバナンス)やBCP(事業継続計画)など、事業所運営に関わる内容も一部含まれています。
2. 管理者に求められる実務スキルとのギャップ
しかし、実際の居宅介護支援事業所の管理者には、収支管理、採用活動、シフト作成、労務管理、経営戦略の立案など、いわゆるビジネス的なマネジメントスキル”が求められます。
主任介護支援専門員研修では、これらの分野は独立した科目としては扱われておらず、経営者や管理職としての実務に直結する学びが不足していると感じるのは自然なことです。
たとえば、研修では「予算管理の確立」や「職員のモチベーション管理」などが触れられていますが、具体的な財務分析や採用戦略、マーケティングといった内容は含まれていません。
そのため、研修を修了しても「現場で本当に必要なことが学べなかった」と感じる管理者も少なくありません。
3. 制度設計と現場ニーズのすれ違い
主任介護支援専門員研修は、制度上の専門職能研修として設計されており、公共性・倫理性・専門性の担保に重きを置いています。
これは、主任ケアマネジャーを「地域包括ケアの推進役」「専門職集団の指導者」として位置づける制度的な意図に基づくものです。
しかし、現場では「主任=管理者」としての役割が求められ、経営や労務の実務に直面することになります。
このように、制度が求める“専門職としての管理”と、現場が求める“経営実務としての管理”の間に、明確なすれ違いが生じているのが現状です。
この状況は、まるで「オーケストラの指揮者を育てる研修」で、楽団の統率や演奏指導は学べても、チケット販売や財務管理といった“興行の現実”には触れられないようなもの。
現場の管理者にとっては、実務との乖離を感じざるを得ない構造になっています。
4. 管理者要件の見直しに向けた今後の論点
こうした現場の声を受け、厚生労働省は2025年12月15日の介護保険部会において、「居宅介護支援事業所の管理者要件の見直しを検討する」方針を示しました。
報告書案では、主任ケアマネジャーの役割を明確化するとともに、「管理者としての労務・財務管理と、ケアマネジメントや人材育成との役割分担が課題」との認識が示されています。
現行制度では、主任ケアマネジャーでなければ管理者になれないとされていますが、2027年3月末で経過措置が終了することを踏まえ、今後は「管理者=主任ケアマネ必須」という構造そのものの見直しが議論される可能性があります。
この見直しは、主任ケアマネの役割を再定義し、専門職としての指導者と、経営実務を担う管理者の役割を分ける方向性を含むものになるかもしれません。
まとめ:制度と現場の橋渡しに向けて
主任介護支援専門員研修は、専門職としての質の担保と地域包括ケアの推進を目的とした制度的な研修です。
一方で、現場の管理者には、経営・労務・採用といった実務スキルが求められ、両者の間には明確なギャップが存在します。
このギャップを埋めるには、制度の見直しとともに、現場の実務に即した学びの機会を別途設けることが必要です。
また、管理者としての役割に不安を感じる方は、介護経営に精通した専門家の伴走支援を活用することも一つの選択肢です。
制度と現場の橋渡しを担う存在として、主任ケアマネジャーが本来の力を発揮できるよう、環境整備と支援体制の強化が求められています。
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