2027年度の次期介護保険制度改正に向けて、再び介護現場を揺るがす大きな議論が始まりました。
それは、要介護1、2といった軽度の認定者に対する訪問介護や通所介護を、介護保険給付から切り離し、市町村が運営する「総合事業」へ移行させるという案です。
財務省などが主張する「給付を重度者に重点化し、財源を効率化する」という大義名分のもと、年末にかけて結論が出される見通しです。
しかし、この見直しは、本当に制度の持続可能性に繋がるのでしょうか。
本コラムでは、この「軽度者外し」が内包する、極めて深刻なリスクについて警鐘を鳴らしたいと思います。
「在宅の砦」を崩壊させ、重度化を招く危険性
審議会で現場関係者が猛反発したように、この制度改正がもたらす最大のリスクは、高齢者の重度化防止という介護保険の根幹を揺るがすことにあります。
要介護1や2の方々にとって、訪問介護や通所介護は、単なる身の回りのお手伝いではありません。
専門職である介護福祉士やヘルパーが定期的に関わることで、利用者の心身の小さな変化を察知し、認知症の進行を緩やかにし、社会的な孤立を防ぐという、極めて重要な役割を担っています。
これらのサービスは、在宅生活の継続を可能にする「砦」であり、在宅限界点を高めるための最も効果的な投資なのです。
これを安価なボランティア主体のサービスに置き換えれば、サービスの質は確実に低下します。
適切なアセスメントや専門的なケアが受けられなくなった結果、状態が悪化し、より重度の要介護状態に陥る人が増えることは想像に難くありません。
目先の給付費をわずかに抑制したとしても、将来的にさらに大きな給付費が必要となる、まさに本末転倒な事態を招きかねません。
サービス供給者を疲弊させ、「介護難民」を生む悪循環
この問題は、利用者側だけの話ではありません。
私たち介護事業者の経営を、まさに崖っぷちへと追い込む深刻な問題です。
まず訪問介護に目を向けると、記憶に新しい2024年度の介護報酬改定で、在宅系サービスでは唯一基本報酬が引き下げられるという厳しい「マイナス改定」が行われました。
既に訪問介護事業所の倒産件数が増加し続けている現状に、この改定が追い打ちをかけています。
一方の通所介護も安泰ではありません。
WAMNETの調査によれば、経営状況は改善傾向にあるとはいえ、依然として事業所の約4割が赤字経営という厳しい現実に直面しています。
このように多くの事業所がギリギリの状態で運営を続けている中で、軽度者から重度者まで多様な利用者を担当することが、ヘルパーの移動効率や職員の稼働率を維持し、事業を成り立たせる生命線となっています。
この軽度者の利用がごっそりと総合事業に移行すれば、多くの事業所が採算の維持が不可能となり、事業からの撤退や倒産がさらに加速することは火を見るより明らかです。
サービスの供給者が減れば、何が起こるでしょうか。
軽度者だけでなく、本来守るべきはずの重度者までもが行き場を失う「介護難民」が発生します。
在宅生活が困難になれば、残された選択肢は「入院」か「施設入所」などに限られてしまうでしょう。
結果として、介護保険で抑制したはずの費用が、医療保険に付け替えられる形で膨れ上がり、国全体の社会保障費をかえって高騰させるという、最悪のシナリオも現実味を帯びてくるのです。
まとめ:短期的な視点での制度改悪を食い止めよ
「軽度者外し」の議論は、介護をコストとしてしか見ていない、あまりにも短絡的な発想と言わざるを得ません。
介護は、超高齢化社会を支える不可欠な社会的投資です。この砦を自ら崩すような制度改正は、断固として避けなければなりません。
私たち事業者は、現場の実態を伝え続け、この国の共生社会の基盤が損なわれないよう、声を上げ続ける必要があります。
このような大きな制度改正の波は、個々の事業所の介護経営に直接的な影響を与えます。
自社のサービス提供体制や事業計画を、今後どのように見直していくべきか。
そんな経営上の課題に直面した時、外部の介護コンサルタントや専門家の視点を取り入れることは、不確実な時代を乗り越えるための力強い支援となるはずです。




 
