【後編】「応能負担」強化の足音。訪問看護ステーションが備えるべき未来の経営戦略

前編では、訪問看護ステーションにとっても重要な「高額療養費制度」が、なぜ今、見直しの岐路に立たされているのか、その背景と議論の核心について解説しました。

 

後編となる今回は、この制度見直し、特に「応能負担」の強化が、具体的に訪問看護ステーション運営にどのような影響を及ぼすのか、そして私たちは今後の方向性として何をすべきかを考えていきます。

 

利用者負担増がもたらす「利用控え」と経営への直接的影響

制度見直しによって自己負担限度額が引き上げられた場合、最も懸念されるのが利用者の「サービス利用控え」です。

特に、所得が一定以上あるものの、長期にわたる療養で経済的に余裕のない利用者層では、「負担が増えるなら、訪問の回数を減らそう」という動きが出かねません。

これは、利用者のQOL低下や重度化を招くだけでなく、訪問看護ステーションにとっては売上の減少に直結する深刻な問題です。

 

また、長期療養者への配慮として「年間上限」の導入も議論されていますが、その設計次第では、年の後半になると上限に達し、利用者の自己負担がなくなるケースも考えられます。

こうした変化は、ステーションの収入予測を立てる上で、新たな変動要因となり得ます。

 

複雑化する保険請求事務と求められる対応力

「応能負担」が強化され、所得区分がさらに細分化されると、私たちが日々行う保険請求業務は、より一層複雑になります。

 

・利用者ごとの限度額管理の煩雑化

・制度変更に伴うレセプトシステムの改修

・利用者への説明責任の増大

 

これらの業務負荷の増大は、管理者や事務スタッフの負担を重くし、請求ミスを誘発するリスクも高まります。

日々の運営に追われる中で、これらの変化に正確かつ迅速に対応していくためには、これまで以上の知識と体制が求められることになります。

 

今後の方向性と、私たちが今から備えるべきこと

制度の具体的な内容はまだ決まっていませんが、大きな方向性として「負担能力に応じた負担増」は避けられない流れかもしれません。

この変化の足音が聞こえる今、訪問看護ステーションの経営者・管理者は、以下の3つの視点で備えを進めることが重要です。

 

1.情報収集の徹底と利用者への丁寧な説明準備 制度改正の動向を常に注視し、変更点を正確に理解すること。そして、その内容を利用者やご家族に分かりやすく説明できる準備をしておくことが、信頼関係を維持する上で不可欠です。

 

2.保険請求業務の見直しと効率化 現在の保険請求プロセスに無駄がないか、ミスが起こりやすい箇所はないかを見直し、マニュアルの整備やシステムの活用によって、業務の標準化と効率化を図っておくべきです。

 

3.質の高いサービスの提供と付加価値の追求 利用控えを防ぐ最大の対策は、「このステーションの看護は、負担してでも受け続けたい」と思っていただけるような、質の高いケアを提供し続けることです。専門性の向上や、利用者満足度を高める取り組みを、改めて強化していく必要があります。

 

制度の変革期は、事業所の真価が問われる時でもあります。

変化を的確に捉え、しなやかに対応していくことこそが、これからの訪問看護ステーション運営に求められる姿勢と言えるでしょう。

 

制度の変更は、訪問看護ステーションの開設準備段階から、日々の運営支援、そして保険請求に至るまで、あらゆる側面に影響を及ぼします。

 

先の見えない変化に不安をお持ちの際は、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。皆様の事業所が安心して航海を続けられるよう、羅針盤となってサポートいたします。