2027年度(令和9年度)の次期介護報酬改定に向けた指針として、先日公表された「令和7年度介護事業経営概況調査」。
2025年11月26日に示されたこの調査データは、あくまで「案」とのことですが、今後を占う重要なデータであることは間違いないでしょう。
この結果を見て、安堵した経営者はどれほどいたでしょうか。
全サービス平均の収支差率は一見「横ばい」ですが、その実態は深刻です。
全事業所の37.5%が赤字経営に陥り、物価高と人件費増が経営の土台を静かに、しかし確実に蝕んでいます。
本連載では、この調査結果を徹底解剖し、各サービスが直面する課題と未来を読み解いていきます。
■「経営概況調査」とは何か?
まず、この調査の重要性について確認しておきましょう。
これは厚生労働省が全介護サービスを対象に実施した大規模な実態調査です(令和7年5月実施)。
令和5年度と令和6年度の決算数値を比較し、「介護現場が儲かっているのか、苦しいのか」を可視化するもので、次期介護報酬改定(2027年度)の議論における「唯一絶対の基礎資料」となります。
財務省や厚生労働省は、この数字を元に「報酬を上げるべきか、下げるべきか」を審議します。
もちろん、これですべてが決まるわけではないのですが、少なくともここに書かれている数字は我々の未来のルールを決める重要な材料の1つにはなります。
■「平均4.7%」の数字をどう見るか
今回の調査結果、全サービス平均の収支差率は4.7%でした。
前年度からの増減は0.0%。 これだけを見ると、「介護業界は安定している」「物価高でも持ちこたえている」と錯覚してしまいそうです。
しかし、この「平均値」の裏には、恐ろしい格差と地盤沈下が隠されています。
まず、この数字はあくまで「加重平均」です。
一部の大規模法人や高収益サービスが平均値を押し上げている一方で、実態としては全体の37.5%(約4割)の事業所が赤字です。
特に施設系サービス(特養・老健・介護医療院)においては、44.8%とほぼ半数が赤字という「異常事態」になっています。
さらに、この収支差率は原則として「物価高騰対策の補助金を含まない」数値です。
つまり、補助金という輸血がなければ、さらに多くの事業所が倒れていたかもしれない、という薄氷の上の経営実態が浮き彫りになっています。
■「居宅サービスの収益低下」と「施設サービスの慢性赤字」
今回の特徴的な傾向として、以下の2点が挙げられます。
1. 居宅系サービスの利益率低下
これまで比較的利益率が高いとされてきた「訪問介護(▲1.5%)」「訪問看護(▲1.6%)」が、前年度比で大きく数字を落としました。
これは、ガソリン代などの経費増に加え、採用競争激化による人件費の高騰が直撃している証拠です。
「在宅シフト」を掲げる国の方向性とは裏腹に、在宅を支える足腰が弱り始めています。
2. 施設系サービスの構造的苦境
特養(1.4%)や老健(0.6%)は、かろうじてプラス圏内ではあるものの、利益とは呼べないほどの低水準です。
居住系サービスは光熱費や食材費のインフレ影響を24時間受け続けるため、今の報酬水準では構造的に利益が出しにくい状況にあることがデータで証明されました。
■この数字が「2027年改定」にどう響くか
この調査結果は、次期改定に向けてどのようなメッセージを発しているのでしょうか。
それは、「小手先の調整では、もう持たない」という悲鳴です。
約4割が赤字という現状において、これ以上のマイナス改定や現状維持は、地域医療・介護崩壊に直結します。
一方で、国も財源不足の中、全サービス一律の底上げは困難です。
したがって、次期改定では、「人件費増に対応できているか」「生産性を高める努力をしているか」といった視点で、生き残れる事業所とそうでない事業所の選別が、よりシビアに行われることになるでしょう。
■連載にあたって
本連載では、今回公表されたデータを「居宅介護支援」「訪問介護」「訪問看護」「通所介護」「施設系」の5つのカテゴリーに分解し、それぞれの現場で何が起きているのか、そして2027年に向けてどう備えるべきかを深掘りしていきます。
数字は嘘をつきません。
しかし、その数字をどう読み解くかで、打つべき手は変わります。
次回(第1回)は、介護の要である「居宅介護支援」に焦点を当てます。
収益は横ばいなのに、なぜ現場は苦しいのか。その謎に迫ります。
どうぞご期待ください!!




