「高収益」の神話に陰り? 過去最大の悪化幅が示す看護師争奪戦の激化
訪問看護といえば、「儲かるサービス」の代名詞のように語られてきました。
確かに今回の調査でも黒字事業所は約8割に達しており、数字の上では依然として優等生です。
しかし、その内実には大きな地殻変動が起きています。
収支差率は1.6ポイント減と、全サービス中で最大級の落ち込みを見せました。
さらに給与費割合は1.4ポイントも急上昇しています。
これは、高収益を維持するために必要な「コスト」が、かつてないスピードで膨れ上がっていることを意味しています。
■「1.6%減」は警告のサイン
今回の調査で、訪問看護の収支差率は10.3%でした。
「10%も利益があれば十分ではないか」という議論があるのは承知の上で、あえて警鐘を鳴らします。
| 指標 | 令和6年度決算の値 | 対前年度増減 | 経営状況の示唆(改定への影響) |
| 収支差率 | 10.30% | ▲1.6% | 前年度(11.9%)から1.6ポイント減少。これは居宅サービスの中で最も大きな減少幅であり、高い収益性からの急激な後退が示される。 |
| 黒字事業所割合 | 79.00% | – | 黒字事業所の割合は79.0%と非常に高く、全サービスの中でトップクラスの黒字率を維持。 |
| 収入に対する給与費の割合 | 70.10% | +1.4% | 給与費の割合は70.1%に達し、前年度から1.4ポイント増加しており、人件費の上昇圧力が強いことを示す。 |
注目すべきは前回の11.9%からの「1.6ポイントの減少」という下げ幅です。
これは居宅サービスの中で最も大きな減少幅です。
山が高ければ谷も深いと言いますが、これまで順調に成長してきた訪問看護市場において、利益率がこれほど明確に削られたことは、成長フェーズから「競争激化・淘汰フェーズ」へと市場環境が完全に移行したことを示唆しています。
■利益を食いつぶす「採用コスト」の正体
なぜ利益率が落ちたのか。その犯人は明白です。
「人件費の高騰」です。 収入に対する給与費の割合は70.1%に達し、前年度から1.4ポイントも跳ね上がりました。
訪問看護は、看護師という国家資格者を雇用しなければ成り立ちません。
しかし、病院における賃上げや、他法人との熾烈な引き抜き合いにより、看護師の採用単価は天井知らずです。
人材紹介会社に支払う数百万円の手数料、定着のためのベースアップ。
これらがボディブローのように経営体力を奪い、「売上は伸びても、利益が残らない」という構造を生み出しています。
■大規模化する「勝ち組」と、疲弊する「小規模」
この1.6%減という平均値の裏では、強烈な二極化が進んでいます。
2024年度改定では、24時間対応や重度者対応、看取り実績などがより高く評価されるようになりました。
これらに対応できる大規模ステーションは高い単価を維持できますが、ギリギリの人員で回している小規模ステーションは、加算も取れず、採用もできず、ジリ貧に追い込まれています。
「訪問看護なら独立すれば儲かる」という時代は、終わりを告げたのかもしれません。今後は組織力のある法人への集約が進むでしょう。
■2027年改定の展望:機能分化の加速
次期改定において、訪問看護はどのような扱いを受けるでしょうか。
依然として10%を超える利益率は、財務省のターゲットになりやすい水準です。
「全体的な報酬引き下げ」のリスクは消えていません。
しかし、今回のデータが示す「コスト増」を盾に、業界団体は防戦することになるでしょう。
結果として予想されるのは、一律の引き下げではなく、「メリハリの強化」です。
看取り、小児、精神、難病など、政策的に必要な機能を果たす事業所には手厚く、そうでない事業所(軽度者中心など)には厳しく・・・
この選別の流れは、2027年に向けてさらに加速すると予測されます。




