
「介護の賃金は上がっている」。 政府の発表や報道では、そんな言葉を耳にする機会が増えました。
しかし、現場の実感はどうでしょうか。 そして、数字の裏側には何があるのでしょうか。
UAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)が公表した最新の賃金調査は、 「賃上げは進んでいるが、他産業との格差はむしろ広がっている」 という厳しい現実を突きつけています。
本稿では、この調査結果をもとに、介護業界の賃金問題を改めて考えてみたいと思います。
■ 賃金は上がった。しかし、追いついていない。
調査によると、月給制で働く介護従事者の昨年7月の平均賃金は 26万9,194円。
昨年3月と比べて 2.9%(7,462円)増 となりました。
一見すると、確かに賃上げは進んでいるように見えます。
しかし、厚生労働省の統計による全産業平均は 34万600円。 その差は 7万1,406円 にまで拡大しています。
前年の格差は 6万4,689円 でしたから、 むしろ“差が広がっている” のです。
賃金が上がっても、他産業の賃上げペースに追いつけなければ、 相対的な生活水準は下がっていきます。
NCCUの染川会長が 「賃上げは進んだが、その幅が不十分」 と述べた背景には、こうした構造的な問題があります。
■ 物価高の中で、生活はむしろ“苦しくなっている”
調査では、介護従事者の 66.8%が「今の賃金に不満」 と回答。
さらに、物価高の影響については 67.7%が「生活が苦しくなった」 と答えています。
賃金が上がっても、食品・光熱費・日用品 などの値上がりが続く中では、実質的な生活はむしろ厳しくなっています。
「賃金が上がったはずなのに、生活は楽にならない」 という現場の声は、数字にもはっきり表れています。
■ なぜ介護だけ賃上げが追いつかないのか?
介護業界の賃金が他産業に比べて上がりにくい理由は明確です。
① 価格転嫁ができない「制度ビジネス」
介護報酬は公定価格であり、 企業努力で自由に値上げすることができません。
他産業が物価高に合わせて価格を上げられる一方、 介護は 3年に1度の報酬改定を待つしかない のです。
② 人材不足が深刻化しても、賃金に反映されにくい
介護職の有効求人倍率は4倍を超え、 訪問介護ではさらに高い地域もあります。
本来であれば、需給バランスから賃金が上がるはずですが、 報酬制度がそれを阻んでいます。
③ 「やりがい搾取」の構造
「やりがいがある仕事だから」 「社会に必要な仕事だから」 という言葉が、結果として低賃金を正当化してしまう構造があります。
■ 国の賃上げ策は“まだ足りない”
染川会長は会見で、 「物価が上昇している中で、同じ生活を維持することすら困難」 と述べ、国の賃上げ策のさらなる強化を求めました。
介護職の賃金が低いままでは、「人材が集まらない」「離職が止まらない」「サービスの質が維持できない」という悪循環が続きます。
介護は社会インフラであり、 賃金の問題は“個人の問題”ではなく“社会全体の課題”です。
■ 現場の声を、もっと政策に反映させるべき
今回の調査は、全国の組合員 3,391人 の声を集めたものです。 そのうち、月給制の介護従事者は 2,139人。
この規模の調査で、66.8%が「賃金に不満」67.7%が「生活が苦しくなった」と回答している事実は、非常に重いものです。
介護職の処遇改善は、 「やるべきだよね」という抽象論ではなく、 “今すぐ取り組まなければならない喫緊の課題” です。
■ まとめ:介護の価値に見合う賃金を
介護従事者は、 高齢者の生活を支え、家族を支え、地域を支える“社会の土台”です。
その仕事に見合う賃金が支払われていない現状は、 社会全体の持続可能性を揺るがす問題です。
賃上げは進んでいる。 しかし、追いついていない。
この“ねじれ”を解消しなければ、 介護の未来は守れません。
今回の調査結果は、 そのことを改めて私たちに突きつけています。




