介護職員の処遇改善、専門職にも拡充へ ――令和8年度介護報酬改定に向けた審議報告案のポイント

令和8年度(2026年度)の介護報酬改定に向けた審議報告案が、介護給付費分科会にて取りまとめられました。

正式決定は年明け以降、厚生労働大臣による諮問・答申を経て行われる予定ですが、今回の報告案は、ほぼ最終的な方向性を示すものと受け止められています。

本コラムでは、介護職員等処遇改善加算の拡充や対象職種の拡大、物価高騰への対応など、今回の報告案の注目ポイントをわかりやすく整理し、現場にとっての意味を考えていきます。

 

1. なぜ今、処遇改善が急務なのか?

今回の改定で処遇改善が強く求められている背景には、以下の4つの要因があります。

(1)人材不足と2040年問題

介護分野では、有効求人倍率が依然として高く、慢性的な人手不足が続いています。

さらに2040年には高齢者人口がピークを迎えるとされ、介護サービスの需要は今後も増加が見込まれます。

このままでは、地域の介護体制が維持できなくなる恐れがあり、人材確保は喫緊の課題となっています。

(2)他産業との賃金格差

これまでの取り組みにより介護職員の賃金は一定の改善が見られましたが、依然として他産業との格差は大きく、特に近年は他業種での賃上げが進んでいます。

このままでは、より条件の良い業種へ人材が流出してしまうリスクが高まります。

 

例えるならば、「水位の上がり続ける川(高齢化)で堤防(介護サービス)を守ろうとしているが、作業員(介護職員)が隣の現場(他産業)へ移ってしまい、堤防が決壊の危機にある」ような状況です。

 

(3)専門職の人材不足

介護職員だけでなく、ケアマネジャーや訪問看護師、リハビリ職などの専門職も不足しています。 これらの職種も現場の中核を担っており、処遇改善の対象に含めることで、より幅広い人材確保を目指す方針です。

(4)物価高騰による経営圧迫

光熱費や食材費の高騰が続く中、介護保険施設では食費の実費が基準費用額を上回る状況が生じています。

このままでは、施設経営の持続可能性が危ぶまれるため、基準費用額の見直しも検討されています。

 

2. 拡充される処遇改善加算の中身とは?

(1)対象職種の拡大

これまでの処遇改善加算は「介護職員」が中心でしたが、令和8年度改定では以下の職種も新たに対象となる見込みです。

 

・介護支援専門員(ケアマネジャー)

・訪問看護師(訪問看護・介護予防訪問看護)

・理学療法士・作業療法士(訪問リハビリ・介護予防訪問リハビリ)

 

これにより、現場で働く多様な専門職の処遇改善が進み、人材確保の後押しが期待されます。

 

(2)新たに対象となるサービス

・訪問看護

・訪問リハビリテーション

・居宅介護支援

これまで加算対象外だったこれらのサービスも、処遇改善の恩恵を受けられるようになります。 なお、加算の算定にあたっては、キャリアパス要件などの新たな基準が設けられる見込みです。

3. 施行は令和8年6月を予定

今回の改定は、令和8年6月の施行が予定されています。 この時期に設定された理由は以下の通りです。

 

・令和7年度補正予算による賃上げ支援事業との連続性

・前回(令和6年度)改定での6月施行との整合性

・第9期介護保険事業計画期間内での対応

 

これにより、令和7年12月から始まる賃上げ支援事業との切れ目のない支援が可能となり、現場の混乱を最小限に抑えることが期待されています。

4. 食費の基準費用額も見直しへ

介護保険施設における食費の基準費用額についても、物価高騰を踏まえた見直しが検討されています。

令和6年度決算に基づく調査では、平均的な食費が現行の基準額を上回っていることが明らかになりました。

例えるならば、「スーパーの食材価格が上がり、これまでの予算では栄養バランスの取れた食事が提供できなくなっている」状態です。 法律に基づき、実態に合わせた適正な価格設定が求められています。

この見直しは、施設入所者と在宅高齢者との公平性を保つ観点からも重要であり、利用者負担への影響を考慮しつつ、適切な水準が検討される見通しです。

5. 処遇改善と生産性向上の両立へ

処遇改善と並行して、生産性の向上や事務負担の軽減も重要なテーマとして位置づけられています。 ICTの活用や業務の効率化、タスクシェアの推進などを通じて、限られた人材で質の高いサービスを提供できる体制づくりが求められています。

おわりに:制度の動向を見据え、現場の声を届けよう

今回の審議報告案は、介護現場にとって希望の持てる内容が多く盛り込まれています。 しかし、制度の設計や運用の詳細はこれから詰められていく段階です。

 

現場の実情に即した制度となるよう、今後も声を上げ、提案を続けていくことが大切です。 介護の未来を支えるのは、現場で働く一人ひとりの力。 その力を支える制度づくりが、いま着実に動き始めています。

 

【参考URL】

第251回社会保障審議会介護給付費分科会