有料老人ホームの「囲い込み」問題 来る制度改正で問われる事業者の倫理(前編)

団塊の世代が75歳以上となる2025年を目前に控え、高齢者の住まいのあり方が、今、国の大きな検討課題となっています。

中でも、多様なニーズに応える受け皿として存在感を増している有料老人ホームについて、そのサービス提供のあり方を抜本的に見直す議論が本格化しています。

 

現行の届出制では事業者の質を事前に担保できず、いわゆる「囲い込み」といった問題が後を絶ちません。

この現状に対し、国は登録制の導入など、より厳しい規制へと舵を切ろうとしています。

 

本コラムでは、2回にわたり、この制度改正の背景にある深刻な課題と、今後の介護経営に求められる視点について解説します。今回はまず、なぜ有料老人ホームが問題視されているのか、その核心に迫ります。

 

ケアマネジメントを歪める「囲い込み」という構造問題

今回の議論で最大の焦点となっているのが、特に住宅型有料老人ホームで指摘される「囲い込み」の問題です。

これは、ホームの事業者が、併設または提携する特定の介護サービス事業所の利用を入居者に強く促し、介護保険サービスを過剰に利用させることで、実質的にホームの運営費を賄うというビジネスモデルを指します。

 

本来、ケアプランは中立的な立場のケアマネジャーが利用者の心身の状態に合わせて作成し、利用者はサービス事業者を自由に選択できるのが大原則です。

しかし、「囲い込み」が横行する現場では、この原則が歪められています。

ホーム側の都合でサービスが組み立てられ、利用者の自立支援という本来の目的が見失われがちになるのです。

 

これは、利用者の尊厳を損なうだけでなく、介護保険財政の不適切な利用にも繋がります。

なにより、真摯に利用者のためのサービスを提供しようとする事業者の努力が報われにくい、不健全な市場環境を生み出す元凶となっています。

 

低い参入障壁と透明性の欠如が招くリスク

なぜ、このような問題が起こりやすいのでしょうか。

それは、有料老人ホームの開設が、行政による事前審査がほとんどない「届出制」であることと無関係ではありません。

 

過去に行政処分を受けた事業者であっても容易に再参入できるなど、事業者の質を担保する仕組みが不十分なのです。

 

加えて、高額な手数料を受け取る入居者紹介事業の不透明性や、施設ごとの情報が統一されておらず利用者が比較検討しにくいといった「情報の非対称性」も、問題を深刻化させています。

利用者はどのホームを信じて良いかわからず、事業者は価格競争や紹介事業者への手数料支払いに追われ、サービスの質向上への投資が後回しになりがちです。

 

まとめ:淘汰の時代に向けた準備はできているか

「囲い込み」や透明性の欠如といった問題は、もはや一部の悪質な事業者の問題ではなく、制度そのものが抱える構造的な欠陥と言えます。

国が登録制の導入や運営基準の法令化といった、より厳しい規制の検討を始めたのは、このままでは利用者の安全も、業界の健全な発展も望めないという強い危機感の表れです。

 

次回の後編では、これらの課題に対し、国がどのような具体的な対応策を検討しているのか、そして私たち事業者はその変化にどう備えるべきかを解説します。

 

このような大きな制度改正の波は、個々の事業所の介護経営に直接的な影響を与えます。自社のサービス提供体制や運営のあり方について、課題を感じてはいませんか。

来るべき変化に備えるため、外部の介護コンサルタントや専門家相談し、客観的な支援を受けながら自社の立ち位置を確認することも、今、求められる経営判断の一つです。