
介護保険制度は、全国一律のサービス提供を目指す「社会保険制度」でありながら、地域ごとの高齢化率や所得水準の違いによって、財政負担に大きな差が生じます。
この“ゆがみ”を是正するために設けられているのが、調整交付金です。
制度の安定性と公平性を支えるこの仕組みは、まさに「バラスト水」のような役割を果たしています。
1. 調整交付金の概要と財源における位置づけ
介護保険制度の総費用は令和6年度予算ベースで約14.2兆円。
そのうち、介護給付費は約13.2兆円にのぼります。
財源構成は以下の通りです。
| 区分 | 割合 | 内容 |
|---|---|---|
| 公費 | 50% | 国(25%)、都道府県(12.5%)、市町村(12.5%) |
| 保険料 | 50% | 第1号(65歳以上)、第2号(40~64歳) |
このうち、国の負担金25%の中に調整交付金(5%)=約0.7兆円が含まれており、地域間の財政格差を是正するために活用されています。
2. 調整交付金の目的と調整要素
調整交付金の目的は、市町村間の財政力の差を調整し、保険料負担の公平性を確保することです。
具体的には、以下の2つの要素に基づいて交付額が決定されます。
◉ 後期高齢者加入割合の違い
・高齢化が進んだ市町村では給付費が増加
・例えば、85歳以上の給付費は年間80,763円/人(令和5年度)に対し、65~74歳は4,321円/人
・この差を調整しないと、保険料が高騰するため、交付金で是正
◉ 被保険者の所得水準の違い
・低所得者が多い市町村では保険料収入が少なくなる
・所得段階別の構成比をもとに、交付金で調整
この仕組みにより、同じ給付水準・同じ所得の被保険者であれば、全国どこでも同じ保険料負担になるよう調整されています。
3. 最近の動向──保険料制度改革と財政調整のトレンド
近年、介護保険制度の持続可能性を確保するため、保険料制度や財政調整の仕組みにも変化が見られます。
◉ 第1号保険料の多段階化と所得再分配機能の強化
・標準段階を13段階に設定し、所得に応じた負担へ
・高所得者の負担増、低所得者の負担軽減
・公費による軽減措置の一部を、介護従事者の処遇改善などに転用
◉ 保険者機能強化に向けたインセンティブ交付金の活用
・保険者機能強化推進交付金(100億円)
・保険者努力支援交付金(200億円)
・自立支援・重度化防止・人材確保などの取り組みを評価し、財政的インセンティブを付与
これらの動きは、後期高齢者人口の急増と生産年齢人口の急減という構造的課題に対応するための重要な施策です。
まとめ:調整交付金は“制度の安定性”を支える見えない力
調整交付金は、地域間の財政格差という“荒波”に揺らぐ介護保険制度の船団を、水平に保って航行させるための「バラスト水」です。
そして、保険料制度の改革は、船体そのもののバランスを整える試みとも言えます。
今後、制度の持続可能性を高めるためには、調整交付金の精緻化と、保険者機能の強化を両輪として進めることが求められます。
制度と現場をつなぐ視点を持ち、こうした議論をより実践的なものにしていくきっかけを作ってくれる専門家から、アドバイスを受けるのも一法です。




