過去最多を更新する訪問介護事業所数 – その裏に潜む「介護経営」の課題と未来

いつもお読みいただきありがとうございます。

 

今回は、多くの事業者が関心を寄せる「訪問介護」の最新動向について、データと共にその背景と今後の展望を考察してみたいと思います。

 

厚生労働省の最新の統計によれば、2025年4月審査分の訪問介護の請求事業所数は35,497ヵ所に達し、6年連続で過去最多を更新しました。

数字だけを見ると、訪問介護マーケットは順調に拡大しているように見えます。

 

しかし、その内実を詳しく見ていくと、単なる成長物語ではない、複雑な業界構造の変化と根深い課題が浮かび上がってきます。

本日はこのテーマを深掘りし、これからの介護経営に求められる視点について解説します。

なぜ訪問介護事業所は増え続けているのか?

 

事業所数増加の最も大きな背景には、皆様もご存じの通り、高齢化の進展に伴う介護ニーズの絶対的な増加があります。

特に都市部ではその需要が顕著であり、大手・中堅法人などが新たなビジネスチャンスと捉え、事業所の展開を進めていることが一因です。

 

しかし、より注目すべきは、そのサービス提供モデルの変化です。

かつての訪問介護は、地域に根差し、ヘルパーが点在する高齢者のお宅を一軒一軒訪問するモデルが主流でした。

 

ところが現在増えているのは、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などに併設され、その建物の入居者を主な対象とする「集約型」の事業所です。

このモデルは、移動時間やコストを大幅に削減できるため、運営効率が非常に高いというメリットがあります。

 

効率的な介護経営を追求する法人にとって魅力的な選択肢となっており、近年の事業所数増加を牽引する大きな要因となっているのです。

 数字の裏側で深刻化する「2つの危機」

一方で、事業所数が増加している裏側では、介護保険制度の根幹を揺るがしかねない危機が静かに、しかし確実に進行しています。

 

1つ目の危機は、深刻な人材不足です。

特に、従来型の地域密着型サービスを担ってきたヘルパーの不足と高齢化は、もはや待ったなしの状況です。需要はあっても担い手がいないため、依頼を断らざるを得ない「サービス難民」を生み出すケースも後を絶ちません。

 

2つ目の危機は、事業者の経営環境の悪化です。

近年の介護保険制度改正における基本報酬の引き下げは、多くの事業所の収益を圧迫しています。

物価や人件費が高騰する中で、事業の継続自体が困難になり、倒産や廃業に追い込まれる小規模事業者は少なくありません。

 

つまり、業界全体としては事業所数が増えているものの、それは一部の効率的なモデルに偏っており、地域包括ケアシステムの基盤となるべき事業所が疲弊・減少しているという、需要と供給のミスマッチが起きているのです。

 変化の時代を乗り越えるための経営戦略

 

このような複雑な市場環境の中で、事業を安定的に継続し、成長させていくためには、これまで以上に戦略的な介護経営が求められます。

 

日々のオペレーションを回すだけでなく、自社の強みと弱みを客観的に分析し、変化する市場にどう適応していくかを常に考えなければなりません。

例えば、人材不足に対応するためのDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や、加算を的確に取得するための体制構築は急務と言えるでしょう。

 

しかし、これらの課題にすべて自社だけで対応するのは容易ではありません。

そこで重要になるのが、専門的な知見を持つ外部の力を活用することです。

 

信頼できるコンサルティング会社などから、第三者の視点で運営支援を受けることで、自社だけでは見えなかった経営課題が明確になったり、効果的な解決策のヒントを得られたりすることがあります。

 

訪問介護業界は今、大きな転換期を迎えています。

この変化の波を乗りこなし、地域に必要とされ続けるサービスを提供していくために、今一度、自社の経営戦略を見直してみてはいかがでしょうか。