2024年6月、介護業界の様相を決定的に変える「介護職員等処遇改善加算」の一本化がスタートしました。
これを単なる「また新しい加算ができた」と捉えているとしたら、その認識は極めて危険かもしれません。
これは、介護事業者が今後、人材を確保し、事業を継続できるか否かを分ける、まさに「踏み絵」とも言える制度なのです。
今回の連載第1回では、なぜこの加算が介護事業の「採用生命線」とまで言えるのか、その理由を市場の厳しい現実と共に解説します。
全産業が賃上げに沸く中、介護業界だけが取り残される
まず、私たちが直面している現実を直視しなければなりません。
介護職員数は、統計開始以来初めて減少に転じました。
その一方で、2040年度には約57万人もの追加の人材が必要とされています。この需給ギャップを、一体どうやって埋めるのでしょうか。
さらに深刻なのは、他産業との熾烈な人材獲得競争です。
2年連続で5%を超える賃上げが実現するなど、全産業で待遇改善が猛スピードで進んでいます。
このような状況で、もし貴事業所が「うちは介護報酬が低いから賃上げは難しい」と安易に考えているとしたら、その時点で競争の土俵にすら上がれていません。
求職者が、より待遇の良い他産業に流れていくのは当然の結果です。
「賃上げは国の責任」という時代の終わり
国もこの危機的状況を座視しているわけではありません。
今回の一本化された処遇改善加算は、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%という明確なベースアップ目標を掲げ、そのための財源を確保した、極めて強いメッセージです。
これは「賃上げのための原資は国が用意した。あとは経営者である『あなた』が実行する番だ」ということです。
実際に、加算を取得している事業所では月額平均で1万4千円近い給与増が実現しています。この事実から目を背けてはいけません。
もはや、「国の報酬が低いから、うちの職員の給与が低い」という言い訳は通用しません。
その資格すらない、と言っても過言ではないでしょう。
貼られる「選ばれない事業所」というレッテル
今、求職者は驚くほど情報を持っています。
インターネットで少し調べるだけで、どの事業所が処遇改善加算を算定しているか、どの区分の加算を算定しているかは、容易にわかってしまいます。
もし、貴事業所が加算を算定していないとしたら、それは求職者に対して「私たちは職員の待遇改善に興味がありません」と公言しているのと同じです。
そのような事業所に、意欲ある人材が応募してくるでしょうか。答えは火を見るより明らかです。
人材不足を嘆く前に、まず自らが人材から選ばれるための最低限の努力をしているか、胸に手を当ててみる必要があります。
処遇改善加算を算定しない事業所、あるいは下位区分の加算算定に留まっている事業所には、「求職者から選択されない」という厳しいレッテルが貼られることになるでしょう。
次回は、ただ加算を算定するだけでなく、なぜ「上位加算」を目指さなければならないのか、そしてその先に待つ生産性向上という果実について、さらに踏み込んで解説します。
加算制度は年々複雑化し、申請には専門的な知識が求められます。何から手をつければ良いかわからない、
あるいは日々の業務に追われて手が回らないと感じているなら、それは危険なサインかもしれません。
外部の専門家の視点を取り入れることも、この難局を乗り越えるための一つの有効な手段です。




 
