【連載企画】令和7年度 経営概況調査から読み解く2027年の未来図~第1回 居宅介護支援

「利益は横ばい」の裏にある、人件費76%の重圧とケアマネジャーの未来

介護の司令塔である居宅介護支援。

今回の調査結果を一見すると、収支差率は6.2%と前回から横ばいであり、「安定している」と判断されるかもしれません。

しかし、その数字だけで安心するのは早計です。

注目すべきは、収入の76.2%が給与費に消えているという事実です。

これは、他サービスと比較しても突出して高い数字です。

なぜ利益が出ているのに、現場の閉塞感は消えないのか。数字の裏に隠された「構造的な課題」を紐解きます。

■「変化なし」は「安定」を意味しない

まず、今回の調査結果における居宅介護支援の収支差率は6.2%でした。

指標 令和6年度決算の値 対前年度増減 経営状況の示唆(改定への影響)
収支差率 6.20% ±0.0% 収支差率は高水準で横ばいを維持
黒字事業所割合 62.80% 全サービス平均(62.5%)とほぼ同水準
収入に対する給与費の割合 76.20% ▲0.3% 収入に対する給与費の割合が76.2%と非常に高い水準にあり、人件費の維持・確保の面で構造的な課題を示す基礎資料となり得る。

令和5年度決算と比較して増減は0.0%。つまり、数字上は全く変化していません。

これを「経営が安定している」と読み解くか、「成長が止まっている」と読み解くかで、景色は大きく変わります。

昨今の物価高騰や賃上げ圧力を考えれば、本来であれば収支構造は悪化してしかるべきです。

それが横ばいで耐えているということは、現場が既存のリソースを限界まで切り詰めて維持しているか、あるいは売上の上限に張り付いて身動きが取れなくなっている可能性を示唆しています。

この「変化のなさ」は、嵐の前の静けさのような不気味さを孕んでいます。

■収入の76%が人件費という「壁」

 

今回の調査で最も注目すべきは、収入に対する給与費の割合が76.2%に達している点です。

これは全サービスの中でもトップクラスの高さであり、居宅介護支援という事業がいかに「人」に依存しているかを物語っています。

一般的に、人件費率が7割を超えると経営の自由度は極端に下がります。

ICT導入による生産性向上を図ろうにも投資余力はなく、職員の賃金を上げようにも、売上の大半が既に人件費で消えているため原資がありません。

「賃上げをしたくても、その袖がない」。この構造的な閉塞感が、今回の数字からはっきりと見て取れます。

■特定事業所加算による二極化と採用難

 

収支差率6.2%という平均値の裏には、事業所間の激しい格差も隠れています。

特定事業所加算を取得している事業所がある程度の収益を確保し、平均値を押し上げている一方で、小規模な事業所は加算取得のハードル(人員要件や24時間対応など)を越えられず、ギリギリの経営を強いられています。

この格差は「採用力」の差に直結します。

人手不足が加速する中、賃金や労働環境を整備できる事業所にケアマネジャーが集まり、そうでない事業所は採用ができず、結果として件数を増やせない(=売上が上がらない)という負のスパイラルに陥っています。

この二極化は、今後さらに加速していくでしょう。

■2027年改定の焦点:利用者負担導入の足音が聞こえる

 

こうした厳しい経営実態を踏まえ、次期2027年度改定では何が焦点になるのでしょうか。

一つは、ケアマネジャーの処遇改善や、法定研修の負担軽減といった「働き続けられる環境づくり」です。

しかし、財源には限りがあります。そこで再燃しているのが、長年の懸案事項である「居宅介護支援費への利用者自己負担の導入」です。

財務省などは以前より、「利用者の意識を高め、給付費を抑制するため」として導入を求めてきましたが、今回のデータが示す「事業所の経営難」や「処遇改善の原資不足」を理由に、「ケアマネジャーの賃金を上げるための財源確保」という文脈で導入論が加速する可能性があります。

しかし、利用者負担の導入は諸刃の剣です。

「お金を払っているのだから」と利用者からの要求が過大になり(カスタマーハラスメントのリスク)、ケアマネジャーが中立的な立場を維持できなくなる懸念や、経済的理由からセルフプランを選択する利用者が増え、適切なマネジメントが届かなくなるリスクもはらんでいます。

■おわりに:構造改革待ったなし

 

今回の調査結果は、居宅介護支援事業所がこれ以上、自助努力だけで賃上げや経営改善を行うことが限界に近いことを示しました。

「利用者負担の導入」というパンドラの箱を開けるのか、それともケアマネジメントの専門性を国費でどう守り抜くのか。

2027年に向けた議論は、ケアマネジャーという職種の未来を左右する分岐点となるでしょう。