【連載企画】令和7年度 経営概況調査から読み解く2027年の未来図~第2回 訪問介護

収支差率「1.5%急落」の衝撃。ヘルパー不足とコスト増が招く負のスパイラル

「訪問介護の崩壊」が叫ばれて久しい昨今、今回の調査結果はその懸念が現実のものであることを裏付けました。

収支差率は前回の11.1%から9.6%へ、わずか1年で1.5ポイントも急落しました。

この数字は、単なる「減益」ではありません。

地域を支えるインフラが、ガソリン代の高騰や採用コストの増加、そして報酬改定の影響によって、足元から揺らいでいる証左なのです。私たちはこの警告をどう受け止めるべきでしょうか。

■「9.6%」という数字の裏にある激震

今回の調査で、訪問介護の収支差率は9.6%となりました。

指標 令和6年度決算の値 対前年度増減 経営状況の示唆(改定への影響)
収支差率 9.60% ▲1.5% 収支差率は高い水準(9.6%)にあるものの、前年度(11.1%)から1.5ポイントと大幅に減少。この急激な悪化が経営環境の厳しさを示すデータとなり得る。
黒字事業所割合 64.90% 全サービス平均よりやや高い水準
収入に対する給与費の割合 67.80% +0.8% 給与費の割合は67.8%に達し、前年度から0.8ポイント増加しており、人件費の負担が増加している傾向を示す。

「まだ約1割も利益があるじゃないか」──財務省などからは、そんな声が聞こえてきそうです。

しかし、現場の感覚は全く異なるでしょう。見るべきは「絶対値」ではなく「変化率」です。

前年度の11.1%から1.5ポイントの減少。

これは企業経営において「業績の急激な悪化」と判断されるレベルの落ち込みです。

特に今回の調査期間(令和6年度決算)は、2024年度報酬改定による「基本報酬引き下げ」の影響が含まれ始めた時期と重なります。

あの引き下げが、ボディブローのように現場の体力を奪っていることが、データとして可視化されたと言えます。

■人件費と「見えないコスト」の二重苦

 

利益を削り取っている主因は何か。

データは明確に「人件費」を指し示しています。

収入に対する給与費の割合は67.8%となり、前年度から0.8ポイント上昇しました。

有効求人倍率が15倍を超えるとも言われるホームヘルパーの採用難。

人材紹介会社への高額な手数料や、定着のための賃上げを行わなければ、事業所は明日にも回らなくなります。

「人を雇うためのコスト」が、かつてないほど経営を圧迫しているのです。

さらに、訪問サービス特有の「物価高の直撃」も見逃せません。

訪問車両のガソリン代、電動自転車のバッテリー代、事業所の光熱費。

これらが高騰しても、介護報酬は公定価格であるため、価格転嫁(値上げ)は不可能です。

入るお金は減り(報酬減)、出るお金は増える(コスト増)。この二重苦が、1.5%急落の正体です。

■「小さな事業所」から消えていく

 

平均値は9.6%ですが、ここには大規模法人の数字も含まれています。

訪問介護は小規模事業所が圧倒的に多いサービスです。

ヘルパー数人で回しているような「町の訪問介護ステーション」においては、このコスト増は致命傷になりかねません。

実際、訪問介護の倒産件数は過去最多ペースで推移しています。

今回のデータで示された収益性の低下は、体力のない事業所からの「撤退」や「廃業」が今後さらに加速することを示唆しています。

地域から一カ所、また一カ所と事業所が消えれば、それはそのまま「介護難民の発生」に直結します。

■2027年改定の展望:守りの改定へ

 

この厳しい結果を受けて、2027年度改定はどうなるのでしょうか。

前回の改定で「利益率が高い」ことを理由に基本報酬が引き下げられましたが、今回の「1.5%急落」という事実は、「これ以上の引き下げは限界である」という強力な防波堤(エビデンス)になります。

次期改定では、以下のような議論が予想されます。

  • 基本報酬の再評価: 急激な収益悪化を食い止めるための底上げ。

  • 非効率な部分への評価: 移動時間や待機時間、中山間地域での活動など、実質的なコストがかかる部分への手当。

  • 同一建物減算の強化とセットでの議論: 効率的なサ高住等への訪問と、非効率な在宅訪問の収支格差をどう埋めるか。

■おわりに:地域のインフラを守れるか

 

訪問介護は、在宅生活を支える「最後の砦」です。

今回の調査結果は、その砦が決して盤石ではないことを教えてくれました。

次期改定までの間、私たちはこの「1.5%の急落」が一時的なものではなく、構造的な危機の始まりであることを、声を大にして訴え続ける必要があります。